
サクセスフルエイジングという言葉は、1950年代にアメリカで提唱された社会学の中の「活動理論」でした。この名称から想像できるように、活動から引退させようとする社会の要請に抗し、中年と同じように活動させようとすることをサクセスフルと定義しています。これは活動的であることを善とするアメリカンスピリッツを反映したものとみなすことができるでしょう。それに対峙する形で、1960年代になると「離脱理論」が提唱されました。これは、社会システムが維持されるためには、高齢者から若者への世代交代が必要で、社会システムはそのために高齢者を離脱させ、高齢者自身も社会の要請に応えて離脱することを選択するものです。このような高齢者をサクセスフルとしています。いずれのモデルも社会は高齢者を排除するシステムを持つことでシステム維持を図りますが、それを受け入れ、社会からの離脱を是とするか、それを拒否し活動を継続することを是とするかで正反対のモデルが示されていました。
1990年頃に提唱された医学におけるサクセスフルエイジングは、社会学のそれとは少し異なります。人間はまさにエイジング=年 をとること・老いること、そして死ぬことを前提にする。サクセスフル・エイジングは、 いつまでも若々しくて年をとらないように生きることを意味しているのではありません。不老不死や不老長寿 の観念を否定するところからサクセスフル・エイジングの議論は始まっています。

寿命の短かった時代には、長生きする=長く老い続けることは多くの人にとって例外的 な他人事でした。働いて、子供を育てて、とやっているうちに寿命が尽きた=死を迎え たからです。そうであれば、老後をどう生きようかなどと考える余地はなかったことに なります。したがって、もし、長生きしたとすると、そのこと自体が幸運に恵まれたメデタイ ことで、長命は即ち長寿であったのです。
寿命の伸長は、多くの人が長くにわたって老い続けることになったことを意味します。か つては例外的で他人事であったことが、多くの人にとって自分事になったということです。不老不死や不老長寿は、長く老い続けることが全くの他人事であるときにこそ、まさに夢として意味を持地ますが、それが自分事 になったとき、老い続けなければならなくなった現実に直面して、不老不死や不老長寿の 夢よりも、いかに老い続けるかが関心事になりました。長命は必ずしも長寿(おめでたい)を意味しなくなっ たということです。サクセスフル・エイジングということに関心が寄せられる意義もこ こにあります。元気で長生きできる人とそうではない人との違いを、遺伝的要因や医学・生理学的要因だけではな く、社会心理学的要因にまで拡張して検討しようとしたものです。
この学術的なサクセスフルエイジングの内容については、まだまだありますが、現在要約されているのが3点です。
①自立して生活できる健康、病気がないだけでなく、病気になるリスクも低い。
②正常な認知能力、判断力
③社会へのコミットメントの維持(ex.仕事、ボランティア、人々との交流etc.)
①について
どんなに医学が進歩してもただ寿命が延びるだけで自分の足で歩ける、何でも美味しく食べれる、そういう健康寿命を延ばしていくのは自分自身の健康管理にかかってきます。 80~100才の自分が一切の医療機関に関わらずに健康な生活をしているとは考えにくくありませんか。 入院費、通院費に費やす金額は数十年に渡り、相当な金額になるでしょう。
そして、それは健康寿命を延ばすものではありません。更に、自分は痛い、苦しい、動かないと何重苦に苦しめられているでしょう。 それに引き換え、トレーニングはその時は少々辛い、苦しいはありますがそれはその後の健康寿命を確実に延ばしていくものとなります。
②については、高齢者では、「寝たきりになると認知症になりやすい」といいます。その逆に、「よく歩くと認知症になりにくい」ことが最近の研究によってわかってきました。歩くことにより、血流量が増えアセチルコリンという神経伝達物質が増える。脳内の血流を活発にすることによって、大脳皮質や海馬にアセチルコリンが増え、脳の内部の血管が広がり、血液の流れが良くなる。また、アセチルコリンが、脳を守る重要なタンパク質(神経成長因子)を増やすことも明らかになりました。さらに、アセチルコリンの働きを高めることにより、神経細胞のダメージを軽減することも確認されています。
「歩く」は必要最低限の運動で、歩いてさえいれば大丈夫という事ではありません。歩くだけでなく、さらに運動量を増やした場合、より認知症を予防する事が可能になるのではないでしょうか。

③は、体を動かさないことにより、行動半径が狭くなると「社会的孤立」に陥ります。
社会的孤立とは、家族や友人、地域社会との関係が希薄で、他者との接触がほとんどない状態のことを言います。寝たきりの前段階として「フレイル」があり、社会的に孤立した人は同居者の有無によらず生活機能が低下しやすくフレイルになりやすいことがわかっています。体を動かせれば、外に出て行き、人とも積極的に交流でき、社会の刺激を常に受ける事が可能です。
